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Mac OS 9 → Mac OS X その1 ... 2005.01.10 Monday
Mac OS X にいまいち馴染めない人におくる「Mac OS X とは」

Mac OS 9 → Mac OS X その1

 「興味はあるけど、よくわからない」「試しに使ってみたけど馴染めない」という Mac OS 9 からの移行組におくる Mac OS X のススメです。

Mac OS X とはなんなのか

 なんか Mac OS X って使いにくくなっちゃたよな〜、なんでこんな風にしちゃったんだろ、といったネガティブなイメージをもって Mac OS X を使っていると改良点も改悪点に見えてしまい、ほんの小さなアラも気になって精神衛生上良くありません。そこで、そういった不信感を和らげて気持ちよく Mac OS X を使うために「Apple にとって Mac OS X とは何なのか」を考えてみることにしましょう。

Mac OS X は Apple によるパソコンのリセット

 建て増しアップグレードの無理がたたり Mac OS X では OS の構造がリセットされました。しかし、Apple がリセットしたのは OS の構造だけではなく、パソコンそのものでした。

  Mac が登場してから Mac OS 9 まで、Apple は " The rest of us(決してコンピュータのエキスパートではない人々)" の為のパソコンを目指していました。その難題に対する Apple の答えは「パソコンの流儀に人間が合わせるんじゃなくて、日常自分たちが行ってる動作が、そのままパソコンで行えるようにすればいい」すなわち「いつも使い慣れた自分の机をパソコン上で再現する」というものでした。
 その考えは多くの人に支持され Mac は素晴らしいものとなりました。しかし、それから10数年経ったある日、Apple はふと気付きました。あたりを見回すと「決してコンピュータのエキスパートではない、そして Mac のエキスパートでもない人々」が立っていたのです。
 今度は " どちらのエキスパートでもない人々 " でも使えるコンピュータを作ろう。それこそが Apple が Mac OS X で目指している方向性なのです。

固執からの脱却

 では「どちらのエキスパートでもない人でもが使えるコンピュータ」というのはどういうものなのか? Apple がその実現の為に大前提として掲げたのが「面倒くささを無くそう」というキーワードです。一見稚拙に見えるこのキーワードですが、それを貫くには確固たるビジョンが必要です。(安易に「もっと便利に(多くの場合より複雑に)」と考えなかったところが Apple らしいところです)
 Apple がまず取り組んだのは、技術的な部分からのアプローチでした。アプリケーションへのメモリ割り当てや、協調型マルチタスクの待ち時間、さらにはクラッシュによる作業の中断など、Mac のエキスパートにとっては常識な事柄も、他の人にとってはなんだかよく分からないリクツです。これら技術的な部分からくる面倒くささをなくす為に Mac OS X には最新の OS 技術が注ぎ込まれました。

 そして、技術以外の部分で Apple が見つけた「面倒くささを無くす」ための手段は2つありました。その一つが固執からの脱却です。Classic Mac OS で行われた現実の机の再現は素晴らしいものでした。筐体などのデザインが注目されがちですが、Mac を Mac たらしめていたのは紛れもなく OS の使い勝手であり、それはこの「机の再現」に集約されていたと言っても過言ではありません。
 しかし、再現というのはマネであり、ただただ追いかけている限り実物を越えることは無いのです。また、忠実さゆえに欠点をも再現してしまうという弱点もあります。
 言うまでもなく Apple にとって重要だったのは、モニタの中で現実の机のシミュレートする事ではなく、、シミュレートによって得られる使い勝手だったのです。そこで、Apple は「Mac の前に座っている人が何をしたいかを考え直し、必要ならば現実の机に固執することなく、変更だろうが機能追加だろうがやってやろうじゃないか」と考えたのです。

 移行ユーザからのブーイングの多い Finder ウインドウを例に取ってみると、Mac OS 9 での Finder ウインドウは現実世界の「分類ボックス」を再現していました。しかし、その忠実さは仕組みを理解しやすいのと同時に「散らかりやすい・単なる入れ物であり、それ以外の機能が無い」という欠点をも再現していました。
 もちろん、現実世界でボックスが散らかった時と同じように、Mac 上でも整理整頓すればいいだけの話です。機能だって通常のメニューから操作すればいいだけの事です。しかし「面倒くささを無くす」という前提に戻って考えてみるとどうなるでしょう。散らからないようにしてしまえば整頓の必要自体が無くなります。メニューよりも手近にその機能を置くことができれば、もっと便利になるかもしれません。(さらに、多くの初心者はメニューを覗く事をあまりしないので、見える場所にある程度の機能が明示されることは有用です)
 ひとつのウインドウで次々開いていくフォルダ、ツールバーのついたウインドウ、というものはそういった狙いから生み出されたのです。

ちょっとひと休み

 Mac OS 9 が現実の机を忠実に再現していた事を示すおもしろい例があります。

ノートフォルダ表示その1

 上のような方法で「ノート」フォルダの中身を表示させているときに「ノート」フォルダをダブルクリックするとどうなるでしょう? もちろんフォルダは開くのですが.....

ノートフォルダ表示その2

 なんと、左のリスト表示を閉じてから「ノート」フォルダを開きます。ではこの状態で、左の「ノート」フォルダの ▽ マークをクリックしてリストを開いてみるとどうなるでしょう。これはもう想像がつきますね。

ノートフォルダ表示その1

 ご丁寧に右に開いていた「ノート」というフォルダを閉じてから、リストを開きます。つまり、 Mac OS 9 ではウインドウのタイトル部分を除いて、画面に同じファイルが複数表示される事は無いのです。同じものが複数目の前に現れるなんてことはありえないという現実を、忠実に再現しようとした Mac OS 9 の律儀さが垣間見られる瞬間です。

制限による誘導

 面倒さの中には手順の複雑さの他に「分からないから困る」という部分があります。 Apple は分かりやすさの実現の為に、かつては「知っているものに似せる.....机の再現」という手法を、そして Mac OS X では新たに「見つけやすくする.....固執からの脱却による機能の追加と変更」という工夫を施しました。そして、Apple がそれ以上に Mac OS X で重視したのは「迷いようがない状況を作る.....制限することによって誘導する」という事だったのです。
 Mac OS 9 までは現実の机を忠実に再現するという OS の方向性により、ファイルの取り扱いに関する自由度はほぼ無制限でした。どこに何を置いても構わないし、いらなければ捨てたって構わない。しかし自由というのは裏をかえせば、事ある毎に判断を迫られるという事でもあります。「これは捨てていいのか、いけないのか」「これはここに置いていいのか、いけないのか」「左がいいのか、右がいいのか」「しょうが焼きにするのか、サバ味噌煮にするのか」
 Mac OS 9 では、制限をかけない事による自由度と制限をかける事による単純さという相反する要素を天秤にかけ、ほぼ自由度の側に針が振り切れるように作られていました。しかし Mac OS X ではその針を大幅に戻したのです。

 これまたブーイングの多い、あらかじめ作られた「ミュージック」「ムービー」などのフォルダを例に取ってみましょう。「ああいうのが決められているのがなんかムカつく」というのが移行ユーザの意見ですが、別の見方をすればあらかじめ用意されていることによって「置き場所を迷う必要がなく分類できる」という人もいるのです。また、標準の場所を用意しておく事によって、それらのファイルを使うアプリケーションにとってはそこを素材フォルダにすることが可能になり、ファイルを探すという迷いを無くすことが出来るのです。
 また、操作に慣れない人ほど標準のままソフトを使う傾向があり、それを考えるとトラブルシューティングの際に「○○にあるこのフォルダを見て」といった風に説明がしやすくなる利点もあります。

時代は変わる

 ここまで読んで「確かにオマエの言いたいことはわかった、でもオレは Mac OS 9 の方が好きだ」という人は多いでしょう。いや、多いというか私自身がそうだったりします。ヒトゴトのようにブーイングが多いなどと書きましたが、同じウインドウが次々に切り替わっていくのも、あらかじめ勝手にフォルダが作られているのも大キライです。「ムービーだのなんだのはオレの好きな場所に置かせろ。アプリケーションにぐらい、こっちがその場所を教えたらぁ」と叫びたいくらいです。(実際「ミュージック」「ムービー」なんてフォルダは使っていません)

 しかし、時代は変わるのです。Apple の目指す " The rest of us " のスピリットそのものはなんら変わりませんが、その対象となる人々が変わったのです。かつてパソコンというと、「よっしゃー 使いこなして、絵だの音楽だのやったるぞー」と結構な意気込みを持って買うものでした。言い換えれば、パソコンは " 使いこなす " という訓練が必要な多少複雑な機械という認識がありました。
 ところが今や「テレビ買ったしビデオ買ったし、じゃあ次はパソコン買うか」という気軽さで使われるようになり、その使用目的も「なんか音楽聴けるらしいし、メールとかやってみたい」という何気ないものが主となりつつあります。そういった人にとって重要なのはファイルをどこに置くかではなく「自分の見たい映像が見られるか、音楽が聴けるか」という事なのです。

 昔とは比べ物にならないほど気軽に使われるようになった自動車は、2002年の新規登録車の実に 94.8 % が AT 車です。自分でシフトチェンジし、エンジンブレーキを駆使できる MT 車の方が燃費もいいし、車を運転しているという楽しさに溢れていると思います。しかし、現在自動車に乗る人の多くにとっては、そんなことよりも「乗ってどこかに行きたい。遊びたい」という事こそが重要なのです。

そして、 Mac OS 9 に残された人々は

  Mac OS X は、時代が求める「パソコン」を Apple なりに再構築したものです。そのため、かつての Mac に惚れてしまった人間が違和感を覚えるのはある意味当然な事なのです。 Mac OS 9 時代を懐かしみ、過去と現在の " Ther rest of us " の狭間にとどまるのも一つの選択でしょう。

 しかし、かつて Mac という思想を私たちに示し続けた Apple が、新たに生み出そうとしている未来を一緒に見つめていくのも、そんなに悪くはないんじゃないかと思います。

おまけ:こんな風に悟りを開いたワケ

 上にも書いたように、私はウインドウやあらかじめ作られたフォルダ、その他様々な変更に関して反発心を覚えた方です。それがどうして一転、こんな文章を書くようになったかというと、考え方を変えたあるきっかけがありました。

  Mac OS X 10.1.5 を試しに使って「前のやり方で十分使いやすかったんだから、どうして変更するんだろう」とイライラしている時、ふと頭に自動車のコラムシフト AT が思い浮かびました。コラムシフト AT というのは、ワイパーを動かすレバーのようにハンドルの横から飛び出た AT シフトレバーです。
 機械的にギヤを切り替える MT 車と違って、AT 車の場合シフトレバーは単なるスイッチに過ぎません。MT 車のようにフロアに設置しなくてもコラムシフトのようにハンドル横についていようが、最近増えてきたインパネシフト AT のようにエアコンの近くにあっても構わないのです。(タクシーや軽トラのように、コラムシフトタイプの MT 車もあります)
 MT 車のシフトレバーは、機構的な制限と使いやすさのバランスを取ってあの位置に配置され、一般的な AT はそれを踏襲しています。しかし、あの位置にあるメリットとはなんでしょうか? シフトレバーは言うまでもなく運転に直結する装置で、ハンドルの近くにある方が安全かつ便利です。また、フロアを有効活用できるという意味でも、むしろあそこにない方がメリットがあるとさえ言えます。
 唯一.....しかし無視することができないメリットとして挙げられるのが「MT 車と同じ」という事です。言い方を変えれば、そこにレバーを設置するメリットは「MT 車と同じ」という以外ほとんどありません。
 そして、現在でも多くの車が AT シフトレバーをあの場所に配置していますが、非セダン車を中心にコラムシフトやインパネシフトが増えつつあります。

 ここからは、上で Mac に置き換えて語った部分と同じです。MT 車と同じになるようにとマネをして、そのデメリットまで再現する必要は無いのです。本来の「運転中に操作するレバー」という役割を考え直し使いやすい位置に配置する事こそが、全体的・長期的に見れば安全であり、使いやすいのです。


 こんな事が頭に浮かび「ああそうか、時代が変わったから Mac も変わるのか」と思うようになりました。すると、それまで毛嫌いしていた Mac OS X の奥にも、Apple が持つ相変わらずな " The rest of us " というポリシーを見いだすことができるようになったのです。

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